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今回は慶應義塾大学の小論文を学部ごとに解説します。
文学部、法学部、商学部、経済学部、総合政策学部、環境情報学部
字数、配点、試験時間、課題文や参考資料の量、出題分野、必要な力や対策
文学部
試験時間:90分, 配点:100/350点
資料を与えて理解と表現力の能力を総合的に問う。
出題例(2023年度入試より)
設問1 この文章を320字以上400字以内で要約しなさい。
設問2 正解の出ない問題に取り組むことの意義について、この問題を踏まえて、あなたの考えを320字以上400字以内で述べなさい。
傾向と対策
文学部の小論文は、1つの課題文について、設問1で要約、設問2で論述、という形式で定着しているようです。求められる字数はどちらの設問も300‐400字程度といったところでしょうか。文学部らしい人文系のテーマがよく出題されます。
対策としては、要約練習を加えた現代文の学習が必須です。文学部の小論文では、与えられた資料の理解度が合否のカギになるといっても過言ではありません。現代文読解力の開発講座などの参考書で読解力を養ったうえで、CamPassなど国公立対策用のテキストを使って記述式の問題演習を行い、要約力を磨いていくのも有効な対策のひとつです。
また、自分の意見を適切な言葉と正確な表記で示す表現力も問われるので、現代文キーワード読解などの参考書で語彙力や人文系の知識をつけることも必要でしょう。
経済学部(A・B方式)
試験時間:60分, 配点:70/420点
高校生にふさわしい知識,理解力,分析力,構想力,表現力を問う。高等学校の特定の教科とは直接には関わらない。
※1 経済学部は、外国語+数学のA方式、外国語+地理歴史のB方式、どちらの方式でもこの2科目に加えて小論文の試験が必須。
※2 なお、A方式においては外国語の問題の一部+数学の問題の一部の合計点が一定の得点に達していなければ、外国語・数学の残りの問題、および小論文は採点されない。また、B方式においても外国語の問題の一部が一定の得点に達していない場合は、外国語の残りの問題、および地理歴史と小論文は採点されない。(なお、採点対象となる問題の一部は問題冊子で明示される。)
出題例(2023年度入試より)
設問A 課題文Ⅰに基づき、個人の多様な意見を反映する集団的意思決定ルールとして、多数決の問題点を200字以内で説明しなさい。
設問B 課題文Ⅰを踏まえた上で、課題文Ⅱにおける「学問への参入者の増大」により生じうる問題と、それに対して「一人の人間が持つ知性が一体どんな意味を持ちうるのか」について、あなたの考えを400字以内にまとめなさい。」
傾向と対策
経済学部の小論文は配点が全体の20%未満であるため、他の教科に比べると小論文の重要度は低いです。また、※2で示したように、いずれの方式も外国語や数学の得点率に準じた“足切り”があるので、小論文以外の科目の対策を優先するべきでしょう。
文学部同様、一つ目の設問で課題文の要約、二つ目の設問で課題文で取り上げられた内容に対する考えが求められる形式がほとんどです。
経済学部の小論文は、配点が低いだけでなく試験時間も短いことから、慶應の他学部に比べて易しめと言われています。それは、決して内容が簡単ということではなく、基本的な読解力や表現力が備わっていることが大前提です。突飛な内容が出題されることはあまりなく、問われたことに対してきちんと回答できるか、すなわち問題の意図を読み解く力をつけることが特に重要です。
また、文学部対策であげた要約や記述問題の演習を含めた現代文の学習に加え、日頃から新聞やニュースに触れ、経済に関する知識を付けることも良い対策になります。
法学部
試験時間:90分, 配点:100/400点
資料を与えて、理解,構成,発想,表現の能力を問う。
※外国語および地理歴史の合計点、および地理歴史の得点、いずれもが一定の得点に達していなければ、論述は採点されない。なお、最終的な合否の決定は3科目の合計点で行われる。
出題例(2023年度入試より)
設問 次の文章は、評論家・福田恒存が1947年に発表した「一匹と九十九匹と」と題する作品からの抜粋である。著者の議論を400字程度に要約した上で、個人と社会の緊張と対立について、あなたの考えを具体的に論じなさい。
傾向と対策
経済学部と同様、論述以外の科目の得点率による“足切り”があります。そのため、法学部も論述以外の科目の対策を優先するべきでしょう。
法学部の論述力試験では、1つの資料について1000字程度の論述が求められます。年によって若干異なるケースもありますが、400字程度で要約、残りの600字程度で考えを論じる形式が多いようです。
資料のテーマは、社会科学や人文科学の領域から出題されます。文学部対策と同様に、国公立用の参考書を用いた読解力・要約力の養成が必要です。
また、資料の論点や設問の意図を読みとったうえで、はっきりと自分が持っている考えの立ち位置(賛成か反対か、プラスの意見かマイナスの意見か、など)を示すことが重要視されるので、法学系の知識をつけるというより、とにかく書いて練習することが大切です。小論文の参考書を用いても良いですが、過去問の演習が最も効果的でしょう。
商学部(B方式)
試験時間:70分, 配点:100/400
資料を与えて、論理的理解力と表現力を問う。
※商学部は、A方式では外国語+地理歴史+数学、B方式では外国語+地理歴史+論文テストの試験が課される。よって、論述が必要になるのはB方式のみ。
出題例(2019-21年度入試より)
※商学部は形式が特殊なため、2019‐21年の出題テーマと大まかな形式のみ掲載
【過去に出題されたテーマ】
2021 「リスク管理」「インセンティブ」
2020 「偶然性」「リスクと情報」
2019 「感情労働とはどのようなものか」「暗号の作り方」
【大まかな形式】
大問1 評論文を用いた選択肢式の穴埋め問題
大問2 大問1と同様の穴埋め問題に加え、比較的短い記述式の問題
傾向と対策
「論文テスト」という科目名からもわかるように、商学部の小論文は他学部に比べて問題形式が少し特殊です。マーク式で回答する問題と、記述式で回答する問題が混在しており、記述式においては少ない字数のなかで簡潔に論じたいことをまとめる必要があります。
また、商学部は合格最低点が高く、3教科合計で8割以上の得点率が求められる年もあるほどです。論文テストの配点はそこまで高くないものの、7‐8割程度とれるようになることが必要でしょう。
対策としては、過去問の演習を行って形式に慣れることが最も重要です。商学部の論文テストでは、読解力だけでなく、経済や商学に関する知識も問われるので、必要に応じてそれらの知識を補うことも対策のひとつです。
また、数学に関する問題が多く出題されるため、過去問演習を通して、商学部入試に求められる計算力や論理的思考力などを身に付けていくことが重要です。
総合政策学部
試験時間:120分, 配点:200/400点
発想,論理的構成,表現などの総合的能力を問う。
※小論文に加えて、数学または情報、あるいは外国語、あるいは数学および外国語、の3つから1つを選択。選択された受験教科の採点結果と小論文の採点結果を組み合わせて、合否の判定が行われる。
出題例(2022年度入試より)
問1
⑴それぞれのテーマについて、重要であると思われるトレードオフ関係を1つずつ指摘してください。 ⑵上であげた関係が、どうしてトレードオフになるのか理由を考え、それぞれ120字以内で論じてください。
問2
問1で指摘したトレードオフ関係の中から1つを選び、3ページに記した(イ)(ロ)(ハ)のいずれかの対処方針を用い、どのような方策で解決するべきか1000字以内で論じてください。なお、(イ)(ロ)(ハ)ではない別の考え方で対処できるという場合には、その旨記し、どのような考え方か説明した上で答えてください。SFCでは型にはまらない学生を歓迎しているので、本当にそれが正しいと思ったら、臆せず挑戦してみてください。
傾向と対策
慶應の入試において小論文の配点が最も高いのがSFCです。小論文の配点が全体の50%を占めているだけでなく、資料の量や指定される字数がかなり多く、内容も特殊なので、それなりの対策が必要です。
年によって形式や内容がガラリと変わるので、なにか1つの対策に集中する、というよりは、幅広い分野の問題に対して臨機応変に対応できる力が求められているように感じます。
他学部に比べて比較的自由度の高い問題が多く、出題例としてあげた2022年度入試の問2にも記してあるように、「型にはまらないこと」がどの年にも共通したポイントです。
膨大な量の資料からカギとなる内容を読み解き、いかにして自分の主張につなげられるかが重要になるので、現代文の学習を主軸とした読解力と、幅広い分野の背景知識を養うことを意識しましょう。
具体的な対策としては、過去問演習が最重要ではありますが、文学部対策であげたような現代文の学習に加え、新聞やニュース、小論文のネタ本等で様々なジャンルの情報に触れる必要もあるでしょう。ただ注意すべきは、それらの情報をそのままインプットするのではなく、必ず自分独自の視点から考察することを意識しましょう。
環境情報学部
試験時間:120分, 配点:200/400点
発想,論理的構成,表現などの総合的能力を問う。
※小論文に加えて、数学または情報、あるいは外国語、あるいは数学および外国語、の3つから1つを選択。選択された受験教科の採点結果と小論文の採点結果を組み合わせて、合否の判定が行われる。
出題例(2022年度入試より)
問1 様々な問題解決の取り組みにおいては、事前に十分なデータが入手できないことがあります。そのような場面では手に入る限られた情報から仮説を立て、おおよその数値を推定することが求められます。限られた情報から数値を推定する試みについて以下の問いに答えてください。
(以下、小問2題は割愛)
問2
【注意】以下の記述は出題上の架空の設定です。大学および学部による実際の取り組みとなるとは限りません。また「問1」と「問2」は独立した問題であり関連づける必要はありません。
環境情報学部では2022年度より「未来からの留学生派遣制度」の導入を検討しています。「未来からの留学生派遣制度」では2022年度入学生の一部を2年前の2020年4月入学生として過去の時空間に派遣し2年間を過ごしていただきます。対象者は2022年4月1日時点の記憶を持った状態で2020年4月1日に向かいます。そこで皆さんが経験する出来事は皆さんの働きかけによって変化しうる(皆さんが知っている歴史を変えることができる)ものとします。なお過去に持ち物を持っていくことはできません。また、この2年間の間にさらに過去や未来に移動することはできません。
環境情報学部ではこのような特別な機会を最大限有意義に活用し、よりよい世界を実現する意欲と力のある人に入学してもらいたいと考えています。特に他の人と異なる視点や創造的なアイデアなどを高く評価します。
以下を前提として以下の問いに答える形で活動計画を記述してください。なお時間移動に伴い発生する矛盾点(タイムパラドックス)等については各自で考えた設定を用いてください。
(以下、小問4題は割愛)
傾向と対策
環境情報学部は、総合政策学部とあわせてSFCと表されることが多く、小論文対策についても大きな違いはありませんが、両学部を受験した身からすると、環境情報学部のほうがより問題の自由度が高い印象があります。
知識や読解力があれば太刀打ちできる問題が出題されることはまずなく、ほとんどがクリエイティブなアイデアや独自の視点を求める独特の問題です。
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