皆さんこんにちは!武田塾八戸校校舎長です!
今回は武田塾八戸校で講師をしてくれている工藤先生に小説読解のコツについて教えてもらいました。
ここから先が本文になりますので、ぜひじっくり読んでみてください。めちゃくちゃ面白いです。
講師がどんな方法で読んでいるのか、教えてくれるのか、想像つきやすいかと思います。それではどうぞ!
〝メロスは激怒した。〟
有名な書き出し。
覚えている、という人も多いでしょう。中学の国語の授業で初めて読んだという人もいるでしょうし、その以前に読んだことがある人もいるでしょう。太宰治の「走れメロス」の書き出しの一文です。なぜメロスが怒ったのか、このあとメロスが何をしたのか……。覚えていますか?
普段の授業においても、受験においても、小説の読解、心情把握を必要とする問題があります。苦手だと思う人もいるでしょう。日本語だからと優先度を低くしている人もいるかもしれません。小説の読解で点数をとれるかどうかは、「これまでにどれほど本を読んできたか」だけに左右されるわけではありません。いっぱい本を読んできたから大丈夫だ、と慢心していると、意外とミスをしてしまうものです(筆者がそうです)。
小説を読むことや読解問題が得意か不得意かに関わらず、システマティックな手順で文章を分解し、読解することが出来るなら、苦手意識も軽くなり、ミスも減っていくでしょう。
今回は、「走れメロス」の一部分を例に、小説を感情的ではなく論理的に理解し、正答を導くためのコツを紹介します。
取り上げるのは以下の場面。
(妹の結婚式の買い出しのためにシラクス市を訪れたメロスは、その市を治める王ディオニスの悪事に怒りを抱く。)
メロスは、単純な男であった。買い物を、背負ったままで、のそのそ王城にはいって行った。たちまち彼は、巡邏の警吏に捕縛された。調べられて、メロスの懐中からは短剣が出て来たので、騒ぎが大きくなってしまった。メロスは、王の前に引き出された。
「この短刀で何をするつもりであったか。言え!」暴君ディオニスは静かに、けれども威厳を以て問いつめた。その王の顔は蒼白で、眉間の皺は、刻み込まれたように深かった。
「市を暴君の手から救うのだ。」とメロスは悪びれずに答えた。
「おまえがか?」王は、憫笑した。「仕方の無いやつじゃ。おまえには、わしの孤独がわからぬ。」
「言うな!」とメロスは、いきり立って反駁した。「人の心を疑うのは、最も恥ずべき悪徳だ。王は、民の忠誠をさえ疑って居られる。」
「疑うのが、正当の心構えなのだと、わしに教えてくれたのは、おまえたちだ。人の心は、あてにならない。人間は、もともと私慾のかたまりさ。信じては、ならぬ。」暴君は落着いて呟き、ほっと溜息をついた。「わしだって、平和を望んでいるのだが。」
「なんの為の平和だ。自分の地位を守る為か。」こんどはメロスが嘲笑した。「罪の無い人を殺して、何が平和だ。」
「だまれ、下賤のもの。」王は、さっと顔をあげて報いた。「口では、どんな清らかなことでも言える。わしには、人の腹綿の奥底が見え透いてならぬ。おまえだって、いまに、磔になってから、泣いて詫びたって聞かぬぞ。」
____「走れメロス」,太宰治
「走れメロス」は文体が軽快でくどくなく、しかし小説の醍醐味である情景描写もしっかり組み込まれ、小説の魅力がありながら基本的な解説がしやすい文章だと思います。中学の国語の授業で解説をするのもうなずけます。とはいえ、問題に出されるものすべてが読みやすいものではありません。普段使わない語彙に格闘することもあるでしょう。そういったものや、心情描写・情景の鮮やかさが特徴的な、少し読みづらいと感じる小説については、別の記事で触れたいと思います。今回は基本のキ。どんな文章にも適用できるものをお伝えできれば……と思います。
①文中の登場人物を把握する
まず、文に出てくる人物を確認しましょう。これは、主語の把握に繋がります。
当たり前!
そう思う人もいるでしょう。普段から小説を読む人は、「誰が話しているのか」ということを殆ど意識せず流れで汲み取っていくと思います。しかし、同じ場面に複数の人が登場したり、固有の名前ではなく「彼」などの代名詞で人物が示されたり、主語そのものが省略されている場合もあります。そのときにミスをしてしまわないように、当たり前と思う人は、確認を怠らないようにしましょう。
では例題から、登場人物を整理してみましょう。
メロス、警吏、暴君ディオニス(王)。
警吏はメロスを取り押さえる職務を全うしたので、ここでさよならです。この会話の重要な人物は、
・メロス
・ディオニス
のふたりになります。会話形式で、必ずどちらが話したかの主語が書かれているので、わかりやすいですね。
②行動と心情の描写を抜き出す
ポイント②に入る前に。
これはポイント③を行うための準備です。すぐに読み取ることが出来る人は②と③を同じ作業として行うことも出来ると思いますが、今回は地道に行っていきましょう。急がば回れです。
設問において、たとえば「なぜAはこのような行動をとったのか、あてはまるものを選びなさい(答えなさい)」のような問いがあったとき、答えを導くのにどんな要素が必要でしょうか。
とった行動=【結果】と、なぜそうしたか=【原因】
この二つを理解する必要があります。「因果関係」と呼ばれるものです。
【結果】は行動のみに現れますが、【原因】にあたるものは過去の出来事と、そこから発生した心情です。たとえば、
「小さなころ、隣の家の人が大きな犬を飼っていた。学校へ向かうために毎朝その家の前を通るたび、私はその犬に吠えられていた。首輪から伸びたリードがちぎれそうなほど前のめりになりながら吠えるのだ。体の大きな犬が、大きな声で、噛みつくような勢いで吠えてくる光景は、小さな私にとって最大の恐怖だった。今でも私は、犬を見るとその恐怖を思い出して、距離をとってしまう。」
こんなエピソードがあったとして、この文のなかの【結果】にあたる行動と、【原因】にあたる過去の出来事と心情を抜き出すことが出来るでしょうか。
【結果】〇犬から距離をとる
【原因】△過去の出来事…小さいころ、隣の家の大きな犬に吠えられた ●心情…恐怖
こんなふうに抜き出すことが出来ますね。これと同じように、例文から簡単に、行動(〇で示します)・過去の出来事(△)・心情(●)を抜き出してみましょう。
まずはディオニスから。
「『この短刀で……けれども威厳を以て問いつめた。」→ 〇メロスを問いつめる:△メロスが短刀を持って城にやってきた
「その王の顔は蒼白で、眉間の皺は、刻み込まれたように深かった。」→ ●疑念:△(文脈において)人を信じられなくなっていた+メロスが短刀を持っていた
「王は、憫笑した。『仕方の無いやつじゃ。おまえには、わしの孤独がわからぬ。』」→ 〇メロスを憫笑する(●:孤独である+メロスは自分の孤独をわからないと思っている):△メロスの発言
「『疑うのが……望んでいるのだが。』」→ △疑うことが正当だと思わせられる経験をした ●人のことを信じられない(信じたいと思ってはいるものの) 〇(セリフにあるように)呟き、溜息をつく
「『だまれ、下賤のもの。』王は、さっと顔をあげて報いた。」→ 〇メロスに報いる(嘲笑に対して叱責する)●人は口だけで、腹の中は別であると考えている
このように行動と心情を抜き出してみて、何がみえてくるでしょうか。
メロスに対して友好的な行動をとっていませんから、まずは物語のうえで、メロスとは対立する存在である、ということ。
そして、「暴君ディオニスがどんな人物か?」ということを理解するのに最も重要なポイントが、彼が人を信じられないところにある、ということを読み取れると思います。
次にメロス。
「『市を暴君の手から救うのだ。』とメロスは悪びれずに答えた。」→ 〇ディオニスに答える ●市を救いたいと思っている(正義感):●自分のしたことを悪いと思っていない
「『言うな!』とメロスは、いきり立って反駁した。……『人の心を疑うのは、最も恥ずべき悪徳だ。……』」→●怒り:△ディオニスの態度・発言 〇ディオニスの意見に反対し、非難する
「こんどはメロスが嘲笑した。」→〇ディオニスを嘲笑する:△ディオニスの、本当は平和を望んでいる、という発言
このように抜き出すことが出来ます。メロスのパーソナリティが少し見えたでしょうか。王に対して不遜だと言うこともできれば、勇気ある、あるいは蛮勇さを持った人物だということも出来るでしょう。「走れメロス」において、メロスという人物を読み取るときには後の彼の行動や考えを知る必要がありますが、この場面からはその一端が垣間見えますね。
登場人物が〝なぜ〟〝何をしたか〟を分解して知ることが出来ました。次のステップで、設問に答える準備を終えましょう。
③行動と感情の結びつきを整理する
人の感じ方は千差万別で、同じ体験をしても、そこから生まれる感情は同じとは限りません。ですから、心情を理解して解く必要のある設問は、それぞれ違う観点で判断するのではなく、その文章にある論理的な部分で読まなければなりません。そのために、じっくりと人物の行動と心情を解体しました。あとは、論理の破綻がないように、因果関係を成り立たせれば、人物の理解に近づくことが出来ます。
②の冒頭に出た、例題のエピソードを簡単に整理すると、[小さいころ隣の家の大きな犬に吠えられ恐怖を感じたことがきっかけで、いまでも犬から距離をとっている]と言うことができます。「例題の中の私」がどんな人物なのか、簡単に読み取れますね。
同じように、「走れメロス」の例文から抜き出した行動と心情を結び付けてみましょう。
【ディオニス】
・ディオニスは、メロスが短刀を持って王城へ入ってきたために、疑念を持って彼を問いつめた。
・メロスの発言(「市を暴君の手から救うのだ」)を聞き、自分の孤独がわからないのにも関わらず、王を討とうとしているメロスを憫笑する。
・ディオニスは人によって人を疑うことが正当だと思わせられる経験をしたため、人のことを信じたくても信じられない、と思っている。
・メロスの嘲笑(「なんの為の平和だ……何が平和だ」)を聞き、それに対して人は口だけのものなのだと言い返す。
このように分解すると、ディオニスの人物像を掴めるようになってきます。
▶メロスが正義感で行ったことをあわれむ(そのような行動をとるメロスのことをかわいそうに思う)
▶人を信じられない、孤独である、という気持ちが根深い。メロスをふくめ、人は私欲のかたまりであり、言う良いことは口だけだ、と思っている
ポイント:ディオニスが「王」であることを考えると、彼の考えが為政者として非常に不安定で危険であることがわかりますね。(実際、自分自身の疑心だけで人々を処刑するなどの行為をしていますし……)
【メロス】
・短刀を携え王城に入ってきた理由を問われ、彼は悪びれず、市を暴君の手から救いたいからだと答える。
・メロスを憫笑し、自分の孤独はわからないと言って行為を正当化しようとする王に対し怒り、王の意見に反対し、王を非難する。
・本当は平和を望んでいると言うディオニスを、行動(罪のない人を殺したこと)を引き合いに出して嘲笑する。
この例文のなかにメロスはどんな人物として現れているでしょうか。
▶王に対して怒りを抱いており、彼を討つことを正しいと考えている
▶人を信じることが正しく、疑うことは間違っていると思っている
▶ディオニスの発言が、自分のしたいことをする(地位を守るなどの)ことの言い訳に感じている
二人の行動と心情、出来事をまとめると、このように整理できました。
メロスとディオニス、二人がどんな人物か把握できたでしょうか。この例文から二人のことを説明するように求められたら、簡潔に紹介することが出来ますか?
二人を比較すると、メロスは「人を信じる」、ディオニスは「人を信じない」という大きな違いで対立しているということが明白です。せりふにも明らかにその対比が現れていますね。この二つはこれからの物語の展開に欠かせないテーマなので、まずこの二つの点を掴むことが必要です。
まとめ
以上3つの段階を踏み、文に登場する人物について、根拠のある人物像を描き出すことが出来れば、心情理解を必要とする問題に対処することが出来るようになります。
問題を解くために小説を読むときは、
その文に
誰が登場し(ポイント①)
どんな行動をとり、それは何に基づいているのか(ポイント②、③)
を、第三者の目線で冷静に分析しましょう。
今回は「走れメロス」を題材にして、論理的に読解するポイントを紹介しました。
別の回では、違う作品を題材にし、比喩表現や語彙、時代背景と向き合うことについて紹介できたらと思います。
ここまで読んでいただいてありがとうございました。また別の回でお会いしましょう。
【あとがき】
太宰治の作品でおすすめなのは「斜陽」と「皮膚と心」、「駆け込み訴え」です。ご興味があれば読んでみて下さいね。
【参考文献】
太宰治、「太宰治全集3」 ちくま文庫、筑摩書房、1998年
太宰治、「走れメロス」、https://www.aozora.gr.jp/cards/000035/files/1567_14913.html
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