学校や学習塾の授業の形式には、映像授業や対面授業などさまざまな種類があります。
その中でも、最近注目を集め始めている‟反転授業”という授業形態があります。
従来の授業と異なる授業の形式で、実際に大学でも導入されている授業形式です。
少しずつ知名度が上がってきている反転授業ですが、名前は聞いたことがあっても、反転授業とは何なのか知らない人も多いと思います。
今回はそんな反転授業とは何なのか知りたい人に向けて、反転授業の概要とメリット・デメリットをご紹介します。
反転授業とはどんな授業?
反転授業とは、その名の通り従来の授業形式を反転させた授業形式のことを言います。
学校や塾の授業では学校(塾)で授業をして、自宅でその学習内容の復習・宿題をするのが一般的ですが、反転授業の場合は自宅で授業をして学校で復習・宿題を行います。
自宅で授業をすると言っても、もちろん自宅に講師を招いて授業を受けるというわけではありません。
ビデオ講義等のデジタル教材を用いて自宅で予習・インプットをし、学校の授業では演習を行ったり学習内容に関する意見交換などをしてアウトプットするのが反転授業という授業形式です。
反転授業は2000年代にアメリカで導入されて以降、東京大学をはじめ諸大学が導入するなどして注目を集めています。
反転授業はブレンド型授業のひとつ
そもそも反転授業とは、ブレンド型授業の一つです。
ブレンド型授業とは何かというと、学習目的に合わせて対面授業とオンライン授業を組み合わせた授業形式のことです。
主なブレンド型授業としては、大学の授業で初回や討論が必要な回など対面が望ましい回を対面授業、インプットのみの回をオンライン授業で行うという授業形態が挙げられます。
反転授業とは知識の獲得のためのオンライン授業と、知識の応用・発展のための対面授業を組み合わせている授業形式であり、ブレンド型授業の発展型とも呼ばれているようです。
反転授業のメリットは?
ここまでは、反転授業とはどのようなものなのかを紹介してきました。
近年注目を集めている反転授業ですが、実際に受講するうえでのメリット・デメリットはどのようなものなのでしょうか?
この項目ではまず、反転授業のメリットについて紹介します。
反転授業のメリット①問題解決力の育成
反転授業の大きなメリットとして、アウトプットする機会が増えるため、問題解決力が育ちやすいです。
また、従来の授業は講師の話を聞いて学ぶインプット形式がほとんどでしたが、反転授業では演習を含めたディスカッションやグループワークが主体となります。
従来の授業形式と比較してアウトプットが増え、コミュニケーション能力や表現力を身に付けることができるようになります。
主体的にコミュニケーションを取って問題を解決していく力は現代の社会で非常に役に立つ能力であり、反転授業とはその能力を育てるのに最適な授業形式と言えるでしょう。
反転授業のメリット②講師が生徒の理解度を把握しやすい
従来の授業に比べて、反転授業では対面の授業内で演習やディスカッションが行われるので、講師が生徒の理解度や弱点などを把握しやすいというメリットがあります。
また、黒板を使った一方的な授業と比較すると、反転授業のほうが講師・生徒間のコミュニケーションをとりやすいという特徴もあるようです。
一度家で学習内容を頭に入れてから授業に臨めるため、生徒側もわからない点や疑問点の質問をしやすくなり、講師側もどの生徒が何を理解してて何がわからないのか把握しやすいことから、学習効果の最大化が見込めるでしょう。
反転授業のメリット③学習の効果・理解度向上
反転授業ではビデオ教材を使った予習を自分のペースで行えるため、生徒が授業内容を理解しやすいというのも反転授業のメリットの一つです。
一般的な授業であれば、途中でつまずいてしまった場合はそのまま置いていかれてしまうか勇気を出して先生に質問しなければいけませんが、反転授業で主に使われるビデオ教材であれば何度でも繰り返して説明を聞くことができます。
もし何度も説明を聞いても理解が出来なかったらその後の対面授業で講師に質問することが出来るため、生徒側・講師側の負担を最小限にしてスムーズに内容の理解・授業の進行を進めることが出来るでしょう。
必ず予習をしてから対面授業に臨めるため、対面授業による学習内容の理解度が向上します。
反転授業のメリット④生徒の学習意欲向上
反転授業のメリット4つめは、授業内で仲間とコミュニケーションを取り合ったり、グループワークをすることによって生徒の学習意欲が向上することです。
反転授業では家で学習してきた内容に沿ってグループワークやディスカッションが行われるため、家庭でのインプットがしっかり出来ていないと授業にきちんと参加することが出来ません。
クラスメイトと学習を行っているという感覚が強まることで、競争心や学習が楽しいという気持ちが掻き立てられ、結果として学習意欲の向上につながるのです。
また、反転授業は家庭学習が前提となっているため、家での学習が習慣化するのも大きなメリットでしょう。
反転授業のメリット⑤学習内容の定着度向上
反転授業のメリット5つめは、学習した内容が記憶に定着しやすいことです。
反転授業では、家でインプットをして授業でアウトプットをします。
インプットとアウトプットの両方があるのは通常の授業と同じですが、宿題が出されない場合復習をするかどうかは生徒次第である通常の授業形式と比べ、インプットとアウトプットどちらにも強制力のある反転授業は学習内容が定着しやすいと言えるでしょう。
また、対面授業の内容がグループワークやディスカッションだった場合エピソード記憶としても学習内容が記憶に残るため、より定着度が向上します。
反転授業のデメリットは?
数々のメリットがある反転授業でしたが、もちろんデメリットも存在しています。
反転授業をきちんと理解するためには、良い点だけでなく悪い点もきちんと知っておくことが重要です。
この項目では、反転授業を受けるうえでのデメリットをいくつか紹介していきます。
反転授業のデメリット①ネットやデバイスが必要
反転授業とはその特質上家庭でのオンライン授業が必須となり、自宅でオンライン授業を受けるにはネット環境やパソコンなどのデバイスが不可欠です。
そのため、ネット環境が整っていない、閲覧するためのパソコンなどのデバイスがない場合は映像を見ることも、配信されたものを受け取ることもできません。
環境がすでに整っている場合は問題ありませんが、整っていない場合は準備をしなくてはならず、費用や手間がかかってしまうというのが反転授業のデメリットの一つです。
反転授業のデメリット②保護者のサポートが必要な場合がある
反転授業のデメリット2つめは、保護者のサポートが必要な場合があることです。
反転授業は家での予習(オンライン授業)が必須のため、家庭学習に慣れていない生徒はオンライン授業についていけなかったり自習に取り組めなかったりすることがあります。
そうなってしまうと予習前提の対面授業もついていけなくなってしまうため、どんどん学習意欲が落ちてしまいます。
なかなか講師側が家庭学習の指導・サポートをすることは難しく、保護者がサポートしなければいけない可能性があるというのは反転授業の大きなデメリットの一つです。
反転授業のデメリット③生徒の負担が大きい
予習をすることが前提の反転授業は、どうしても家庭学習の時間を長く取る必要が出てきます。
1科目1時間弱のオンライン授業・ビデオ教材だとしても、もし説明を繰り返し聴くとなるとそれ以上に時間がかかってしまいます。
また、家庭学習が苦手な生徒は、家で授業を受けなければならないというだけでも精神的に負担があるでしょう。
そういった理由から、部活動や習い事で放課後の時間が少ない生徒や家庭学習ではやる気がなかなか出ないという生徒からすると、反転授業は負担が大きいと感じてしまうかもしれません。
反転授業のデメリット④生徒間の格差が生まれやすい
また、やる気のある生徒とやる気のない生徒で大きな差ができてしまうというデメリットもあります。
先ほども述べたように、もともと学習習慣のない生徒や、やる気のない生徒の場合は予習をするのも一苦労です。
やる気のない生徒や予習をしてこない生徒は対面授業で周りに取り残されてしまい、その遅れを取り戻すためには更に努力をしなければいけないということになり悪循環が生まれやすいでしょう。
「やる気のある生徒とない生徒で学力に差が生まれる」というこのデメリットは通常授業や他の授業でも同じく発生してしまうものですが、予習を必須とする反転授業では特に発生しやすいデメリットであると言えます。
反転授業のデメリット⑤タブレット端末を使うことによる弊害
反転授業のデメリットとして、タブレット端末やパソコンを使用することによる弊害も挙げられます。
反転授業のインプット学習ではタブレット端末やパソコンを使うことが必須のため、必然的に液晶を見る時間が増えてしまうため視力が低下したり肩こりや腰痛などの健康被害が発生する可能性があるでしょう。
さらに、液晶から生じるブルーライトは睡眠を妨げる性質があるため、夜にインプット学習をする生徒にとっては睡眠のリズムを崩す原因となってしまいます。
また、学校や塾から配られるタブレット端末ではなく自分のタブレット端末・パソコンを使う場合、オンライン授業を受けている際に他のアプリを使ったりゲームをしたくなってしまうなど、集中力の低下も予想されます。
反転授業の事例
これまで反転授業の概要やメリット・デメリットについて紹介してきました。
この項目では、実際に反転授業を導入した事例をご紹介します。
University of Saskathchewan
カナダのサスカチュワン州のサスカトゥーンにある州立大学サスカチュワン大学で反転授業が2つのクラスで導入されました。
1クラスでは、授業前に15枚程度のパワーポイントを用いて予習してきてもらい、授業内では予習段階で疑問に思ったことやわからなかったことをお互いに質問しあい、最終的に先生の作ったテストに答えたようです。
もう1つのクラスでは、20分程度の動画を配布して予習してきてもらい授業内ではディスカッションやグループワークを行うという形で反転授業を導入しました。
反転授業を受けた生徒の反応としては、映像授業は何度も見返すことができるからすごく良かったという反応が多かったらしく、おおむね好評だったようです。
山梨大学
山梨大学では反転授業を導入後、高得点取得者の割合が大幅に増えたという結果も出ています。
山梨大学で導入された反転授業の一例として、授業前に15~30分程の事前学習動画で予習をしてもらい、授業ではまず個人で演習問題を解き、その後グループワークで意見交換をするという方法が用いられました。
基本的には予習内容には触れずに疑問点のみを講師が解説していく授業方式のため、グループワークに多くの時間が取れて満足度が高かったようです。
最近話題の反転授業とは?メリット・デメリットや事例をご紹介!|まとめ
反転授業は従来の授業形式とは反対の授業形式で行われる、新しい授業形式です。
自宅でオンライン授業や教材でインプットを行い、学校では演習やグループワークをするなどのアウトプットをする流れになります。
反転授業には様々なメリット・デメリットがあり、今の段階では一概に良い悪いと断言できるようなものではありません。
ただし、この反転授業とは2000年代にアメリカで生まれて日本にも導入され始めたばかりの学習方法・授業形態のため、今後デメリットを改善した形で広まっていく可能性もあるでしょう。
また、文部科学省推奨のアクティブラーニング(主体的・対話的で深い学び)と反転授業がかなり一致しているので、今後全国的に広がる可能性もあります。
学習意欲の高い生徒にとっては有効な学習方法であることは間違いないため、反転授業に興味のある方は、導入している大学や塾で実際に体験してみてはいかがでしょうか。