こんにちは!
武田塾明石校です。
今回は、昨今話題になっている、大学入試における「理系学部の女子枠」について、考えてみたいと思います。
「女子枠」設置のねらい
理工系学部の現状と課題
多くの理工系大学・学部で、生徒数の男女比について課題があると考えています。
女子学生の割合が10パーセント前後、という大学・学部も珍しくありません。
学生の男女比がこんなに開いているということは、もちろんその業界に従事する人の男女比についても、言わずもがなです。
女性が働きやすい職場とは言えないような、ソフト面・ハード面両方の環境が、当たり前のように残っている可能性についても、推して知るべし、と言ったところでしょう。
では、「女子枠」設置について、これは理工系大学・学部だけが抱える課題なのでしょうか。
大学の課題は社会の課題
「女子枠」は、各大学がホームページで設置に関する思いや方針を表しています。
ほとんどの大学に共通するのは、「今後の社会において多様性が必要不可欠なキーワードになる」と考えていることです。
私たちの生きる現代社会は、様々な人が暮らしており、高齢社会における医療・福祉、環境問題における科学技術など、様々な問題・課題を抱えています。
それを解決に向かわせる「知の力」を育むことが、どんな大学にとっても使命と言えます。
社会課題としての「多様性」
「知の力」は、どんなジャンルにおいても、「組み合わせること」で生まれる、というのが現代の常識となりつつあります。
●考古学×物理学の例
ピラミッドに未知の空間 古代エジプト“新発見” 研究者が語る | NHK
●がん治療×薬学×工学の例
異分野融合の先に広がるがんDDS研究の展望(松村保広,西川元也,西山伸宏,我妻利紀) | 2019年 | 記事一覧 | 医学界新聞 | 医学書院 (igaku-shoin.co.jp)
新しい発見やアイディアは、いつも複数の領域における視点の交換・共有によって、生まれてきています。
多様性について、身体的・精神的な障害の有無や出身地(外国人や地方出身者)、経済的背景、文化的背景など、色々な要因が挙げられ、大学の入試制度においてもそれを考慮する仕組みが取り入れられ始めています。
あえて「女子枠」を設置している大学は、社会に対してその大学が貢献できる分野での、「性別における多様性」を課題視し、その改善によってその分野の活性化、社会への貢献を目指している、ということなのです。
理工系学部の「女子枠」実態調査2024 アンケート
公益財団法人山田進太郎D&I財団が、2024年1月に理工系学部における「女子枠」入試を実施している大学を対象に、包括的なアンケート調査を実施しました。
調査項目は「女子枠」導入の背景や目的、効果に加えて、導入時期、応募状況、期待された効果と実現度などに焦点を当てています。
ぜひ参考にしてみてください。
理工系学部の「女子枠」実態調査2024 アンケートから読み解く、24大学の「女子枠」制度の現在地と展望 -山田進太郎D&I財団 (shinfdn.org)
「女子枠」のある大学
現時点で、どれくらいの、またどのような大学・学部が「女子枠」を設定しているのでしょう。
2024年度以降の入試で女子枠のある大学・学部
旺文社教育情報センターが2023年12月時点でまとめたものを紹介します。
大学入試の女子枠2024年入試で増加!|旺文社教育情報センター (obunsha.co.jp)
2024年1月以降に、新しく2025年度入試以降の「女子枠」設定を発表している大学も見られます。
●和歌山大学
令和7年度入学者選抜における学校推薦型選抜(女子枠)の実施について | 和歌山大学 (wakayama-u.ac.jp)
●広島大学
令和8年度広島大学光り輝き入試(令和7年度実施)において 「女子枠」を新設します | 広島大学 (hiroshima-u.ac.jp)
●京都大学
特色入試(女性募集枠) | 京都大学 (kyoto-u.ac.jp)
大学院入試における「女子枠」設置も徐々に行われるようです。
特に国公立大学での「女子枠」設定は、加速していきそうですね。
女子大学での新学部設立
男女共学の理系大学・学部での「女子枠」新設だけではなく、女子大での理系学部の新設(予定)も見られます。
●奈良女子大学 工学部
●お茶の水女子大学 共創工学部
●椙山女学園 情報社会学部
情報社会学部|椙山女学園大学 (sugiyama-u.ac.jp)
●ノートルダム清心女子大学 情報デザイン学部
2024年4月、新たな2学部が誕生します!|学部・大学院|ノートルダム清心女子大学 (ndsu.ac.jp)
●安田女子大学 理工学部
2025年4月 日本初の「女子大学理工学部」を開設予定(設置構想中)|安田女子大学/安田女子短期大学 (yasuda-u.ac.jp)
おわりに
先に述べたように、文理や学部・学科、職業などすべての選択について、男女の区別なく行われる社会が目指されています。
その点では、「女子枠」や「リケジョ」なんていう言葉が必要なくなることが、理想と言えるでしょう。
「女子枠」設置や理工系学部の新設について、その意図は分かってもらえたと思いますが、制度変化の過渡期において、課題や否定的な意見が多くあることも事実のようです。
「女子枠」設置の課題
特に、学力試験が課されない推薦入試や総合型選抜など、’入試形態’に対して不平等感を抱かせてしまうことは、容易に理解できます。
大学側が、入試制度の意図を明確に、学生や社会が納得できる形で示すことが大切なのではないかと思います。
実際に「女子枠」で入学する学生の学力面や、学内設備等の生活面でのフォローアップはもちろん、「女子枠」設置によってその大学の教育が何を成し遂げるか、継続的に明らかにする必要があるでしょう。
また、例えば、旭化成社外取締役の前田裕子さんは大学入試「女子枠」設置に関して、女性の強みとしてコミュニケーション能力の高さをあげ、「技術がわかったうえで、各所と円滑なコミュニケーションが取れることは強みになる。技術営業やマーケティング、産学連携プロジェクト等、活躍の場はさまざま」と述べています。
「女性の方がコミュニケーション能力が優れている」というのが、ただのジェンダーバイアスとならないよう、「性差」に対する考え方を常にブラッシュアップし、入試制度に反映していく柔軟性も、必要なのではないかと思います。